第二十章 砂糖の本

(1)「フード・トラップ」マイケル・モス、本間訳、2014年
 原題は「Salt,Sugar,Fat」(食塩、砂糖、脂肪)です。著者のマイケル・モス氏は、「ニューヨーク・タイムズ」の記者です。次のような文章がありました。
 「ケロッグは、小さなサナトリウムの管理者となった。ケロッグは、塩分と糖分の取りすぎが、米国民が健康を損ねた主因であるとして、この二つを徹底的に排除した。そのため、サナトリウムの食事は、塩と砂糖をまったく使わずに作られ、脂肪分も少なかった。サナトリウムの食卓には、小麦グルテンの粥、オートミールのクラッカー、全粒粉のパンなどが並んだ。
 ケロッグは、シリアルを発明した人に出会った。ケロッグは、小麦粥の残りを機械でつぶしてシート状に広げ、オーブンに入れると、フレーク状のシリアルが出来上がった。彼は、それをサナトリウムの食事に出した。利用者の反応は、まずまずだった。
 ケロッグの弟は、兄に無断でこのシリアルに砂糖を混ぜで売り出した。」(p116~118の要約)
 その後、ケロッグは、巨大企業になりましたが、企業の方向性は、兄の方向性とは逆です。

(2)「甘さと権力」シドニー・ミンツ、川北訳、1988年
 次のような文章がありました。
 (一週間に8ポンドもの砂糖を消費する鉱夫の家計について) 「それゆえ、彼らの食事の基礎は、白パンとマーガリン、コーンビーフ、砂糖入り紅茶、ポテトである」(p408)
 「食べて下さいと言わんばかりに誘惑する安くてうまいものは、常に存在しているのだ。3ペンスでフレンチ・ポテトを食べよう。外へ出て2ペンスのアイス・クリームを買おう。やかんでお湯を沸かして、紅茶を飲もう。(中略)。少なくとも多くの人はそう考えるだろう」(p409)

(3)「フード・ポリティクス」マリオン・ネスル、三宅訳、2005年
 著者は次のように主張しておられます。
 「食品会社は、栄養専門家の学会の教育活動や個々の研究者の研究に日常的に資金を提供し、栄養学者は教育や研究やもっと製品に関連した事柄について、日常的に食品会社の相談にのっている。私自身の経験からいって、栄養学者が何らかの形で食品会社と関係をもたないことは不可能である」(p138)
 著者のマリオン・ネスル氏は健在で、現在も活発に活動を行っています。
 
(4)「純白、この恐ろしきもの」ジョン・ユドキン、坂井訳、1978年
 英国の生理学者ユドキン教授は、次のように述べておられます。
 「生理学的にみて、砂糖を摂る必要は全くない」(p21)
 「砂糖の働きについて、すでに知られている事柄のほんの一部分でも、使用されている他のどんな食品添加剤に現れたとしたら、その物は、即刻使用禁止にされるであろう」(p21)
 この本は、1976年の初版を訳したものです。ユドキン教授もこの本の中で、栄養学者と食品会社との関係について述べています。
 
(5)「Fat Chance」Robert Lustig、2012年
 カリフォルニア大学のラスティグ教授による肥満の本です。次のような文章がありました。
 「北極探検家のステファンソン  (Vilhjalmur Stefansson)(1879-1962)は、1900年代の初めに、北極エスキモーのイヌイットの所で、数年間暮らした。イヌイットは、炭水化物を全く摂らない。彼は、イヌイットでは、がんや心臓病や糖尿病の罹患率が非常に低いことを世界で最初に報告した。彼は、1920年代にアメリカ合衆国に戻ってから、ある実験を行った。彼は、医学的な監視の下で、1年間にわたって、肉だけを食べて暮らした。彼は、『健康について悪い影響は特に認められなかった』と報告している」(p106)
 著者によれば、最近ではイヌイットの所でも、加工食品が販売されているので、上記のような状況は、失われているとのことです。

(6)「世界が認めた和食の知恵」2005年、持田、新潮新書
  この本には、次のように書いてあります。
 「桜沢如一は、明治26年に生まれた。母親と弟と妹2人を結核で失った。18歳の時に、自分も結核になった。石塚左玄の『食物養生法』を読んで実践した。主食を玄米か3分づき米にして、一口200回以上噛んで食べた。副食は主食の3分の1とした。味噌汁、小魚の佃煮、ゴボウとレンコンのキンピラ、鯉こく、野菜のてんぷら、大根おろし、タクワンなどから選んだ。牛乳、卵、肉、魚、果物、酢の物、清涼飲料水、アイスクリーム、コーヒー、紅茶、アルコールなどは極力避けた。特に砂糖は厳禁とした。桜沢如一は、2年後にはすっかり健康になった」(p49-51の要旨)
 (しかし、結核にかかった人がこれを実行しても、治らないことも多いと思われます)。
 この食事法には良い点も多くあります。全粒穀物を摂っています。また、砂糖を厳禁としています。小魚の佃煮を食べています。コーヒーや紅茶を飲んでいません。また、アルコールを飲んでいません。

(7)「Sugar Blues」W Dufty、1975年、邦訳「砂糖病」
  この本の中で、桜沢如一氏が1964年に書いた次の文章が紹介されています。
 「東洋ではずっと以前から知られていることを、西洋医学は今後、認めることになるであろう。それは、『人類の歴史の中で、砂糖は、疑いなく、最も多くの人を殺してきた物質である』ということである。砂糖は、アヘンや放射性物質よりずっと多くの人を殺してきた。砂糖は、極東やアフリカなどの産業化された近代文明における最大の害毒である。おろかな人々は、キャンディを赤ん坊に買い与える。後日、その恐ろしい結末を知ることになるのだ」(p60)
 この本(Sugar Blues)は、これまでに160万部売れたそうです。この本は、ユドキン教授の最初の本(純白、この恐ろしきもの)が1972年に出版された3年後に出版されています。

(8)「ヒトはなぜ太るのか」Gary Taubes、太田訳、2013年
 Gary Taubes氏は、優秀な科学ジャーナリストであり、研究者です。ネイチャー、サイエンス、ニューヨークタイムズに寄稿しています。
http://www.nature.com/news/treat-obesity-as-physiology-not-physics-1.12014
http://www.nature.com/scientificamerican/journal/v309/n3/full/scientificamerican0913-60.html
http://www.nytimes.com/2011/04/17/magazine/mag-17Sugar-t.html
 この本は、前作「Good Calories, Bad Calories」を分かりやすく短く書き直したものです。その邦訳です。
 著者の結論は、「炭水化物が肥満を作る」ということです。著者は、全粒穀物を摂らないように勧めています。また、牛乳(乳糖を含む)を飲まないように勧めています。この点は江部康二先生と同じです。
 しかし残念ながら、Taubes氏の結論は、誤りです。炭水化物は肥満の原因ではありません。それは、糖尿病の大家のジョスリン氏の言う通りです。ジョスリン氏は「日本人は炭水化物を多く摂るが、肥満や糖尿病は少ない」と述べています。日本には、BMIが30を超える肥満の人は、人口の4%しかいません。日本の厚生労働省の栄養所要量では、「糖質の摂取量は総エネルギーの少なくとも50%以上であることが望ましい」とされています。また「食物繊維の摂取量は成人で20~25gとすることが望ましい」とされています。学校給食とか、施設の食事では、この栄養所要量に基づいて、食事が提供されています。肥満している人は、多くいません。
 また、WHOによる、肥満や体重増加を来たす要因には「炭水化物の摂取」は挙げられていません。ただし「砂糖で甘くしたソフト・ドリンクや果物ジュースを多く飲むこと」は挙げられています。
http://www.fao.org/docrep/005/ac911e/ac911e00.HTM
 確かにTaubes氏の言う通り、炭水化物は必須の栄養素ではありません。しかしこれは「エネルギー源として何が最も安全か」という問題なのです。「健康で長生きするには何を選択するか」という問題なのです。肥満は、人々の唯一の問題ではありません。食塩や発がん物質の問題もあります。
 Taubes氏が勧める朝食の例は、ベーコンと卵です(p248)。サイエンス紙にTaubes氏が書いた記事には、ちょっと焦げたベーコンが見えます。その隣にも焦げた食品が見えます。ベーコンは糖化終末産物AGEsを非常に多く含む食品です。またベーコンは食塩を3~4%含む食品です。焦げた食品には、ヘテロサイクリックアミンなどの発がん物質ができます。また加工肉は、国際がん研究機関IARCによれば、大腸がんを来たす確実な要因です。
 Taubes氏は、「好きなだけ食べてよい。運動は不要」と述べています。腹八分目(カロリー・リストラクション)は肥満対策であると共に、アンチ・エイジング(老化対策)でもあります。またWHOによれば、身体的活動性は、肥満のリスクを減らす確実な要因です。運動は、肥満対策だけでなく、ストレス対策、うつ対策、薬物依存症対策であり、神経成長因子を働かせることができます。
 WHOやCDCの言うように、果糖、ショ糖、精製デンプンを制限すると共に、運動を行って、全粒穀物や食物繊維などの炭水化物をしっかり摂るのがお勧めです。
 
(9)「The Sugar Fix」Richard Johnson、2008年
 これは、非常に良い本で、砂糖の害について、多くの事項が簡潔に記載されています。砂糖の害の全体像が良く分かります。著者のコロラド大学のRichard Johnson教授は、次のように述べておられます。
1. 果糖の多い食事をすると、体重が速やかに増加する。果糖の多い食事をしても、満腹にならない。果糖の多い食事は、食べ物全体に対する食欲をコントロールするシステムに障害を与える(p8)。
2. 実験動物に果糖を与えると、尿酸値が上昇する。そして体重が増加し、インスリン抵抗性が生じ、メタボリック症候群のその他の症状が現れる(p98)。
3. 他の糖とは異なって、果糖は、食欲をコントロールするホルモンが脳へ到達して情報を伝える引き金を引かない。別の言い方をすれば、果糖を多く含む食事をたくさん摂っても、満腹にはならない(p103)。
4. 果糖は、活性酸素の産生を促す。それは、酸化ストレスによる細胞障害を引き起こす。酸化ストレスは、がんを作る原因の一つとされている(p140)。
 著者のRichard Johnson教授は、果糖の少ない食事を勧めておられます。低糖質食を勧めておられません。

 日本では、砂糖の害を説明してくれる研究者は多くありません。白澤教授は、貴重な一人です。以下の本も、良い本です。
(10)「糖質はいらない」白澤卓二、2014年
(11)「『砂糖』をやめれば10歳若返る」白澤卓二、2012年
(12)「シュガー・バスターSugar Busters!」レイトン・スチュワート、吉田訳、1999年
(13)「砂糖をやめればうつにならない」生田哲、2012年



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